スピーチは緊張と緩和を使えば、ウケるし心に残る

スピーチでもキンカンの法則を使おう

ビートたけしさんは毒舌でも知られています。話術の天才ですから、知り合いの結婚式のスピーチなどでも、シモネタや毒舌をとりまぜた巧みなスピーチで参加した人たちを笑わせています。
しかし、お笑いタレントではない私たちの場合、スピーチでウケを狙っても、成功する確率はかなり低いでしょう。
特にフォーマルな場でシモネタや毒舌を披露すると、大失敗をすることが多いので要注意です。

 

 

たとえ親しい友人であっても、結婚式などフォーマルなシーンでは、ウケを狙った話題は禁物です。
特に友人の過去をおもしろおかしく暴露する、シモネタを言うのは禁物です。
あなたの人格が疑われることはもちろんのこと、新郎新婦のご家族を傷つけることにもなりかねません。
新たな人生の門出に、主役の新郎新婦やその家族、また参加している人たちにイヤな気分にさせたら、その人達は一生あなたのことを嫌な人という目で見ることでしょう。
そのような危険を冒してまで、スピーチでウケを狙う必要はありません。

 

会話でもそうですが、ウケを狙おうとすると、聞き手の笑いのハードルが上がります。
おもしろい会話は、真面目な顔で伝えるのが一番ウケます。
スピーチも同様です。
ウケを狙うのではなく、自然体でスピーチをすることが大切です。
また、ウケを狙わなくても「キンカンの法則」を使えば、心に残るスピーチが可能になります。

 

キンカンの法則はお笑いの基本で、「緊張」と「緩和」を使うことです。
一瞬張りつめた緊張が緩和すると、人はつい笑ってしまうのです。

 

一例ですが、以前出席した結婚式で、このようなスピーチを行った男性がいました。
その人は、新郎とは小学校からずっと仲良くしている一番の親友でした。
司会者が「新郎の一郎さんの友人の代表として、○○様からお祝いの言葉をいただきたいと思います」と紹介され、マイクの前に出てきた彼は、笑顔を見せることもなく、少し深刻とも受け取れる真面目な表情で、このように話を切り出しました。

 

 

「一郎くん、花子さん、おめでとうございます。お祝いのスピーチを述べさせていただく前に、一点だけ訂正させてください。
今、司会者の方から友人代表と紹介していただいたのですが、私は……」と一呼吸、間をとって
「一郎君のことをこれまで友人だと思ったことありません」

 

これを聞いて出席者たちは、一様に「?」という表情になり、隣の席の人と顔を見合わせて「どうしたのかしら?」とささやきあう人もいます。
彼はそのような会場を見渡した後、これまでの深刻そうな表情と一転、明るい笑顔で
「私にとって一郎くんは、友人というよりもライバルです。小学校の頃から競い合ってきました。運動会の徒競走ではA君がいつも一番。僕は2番でした。中学校では同じ野球部に入部し、エースを争ってきましたが、エースナンバーの1番を付けたのは一郎くんでした。私はいつも一郎くんを目指して努力しましたが、どうしても勝つことができません。そして本日も、どちらが早く結婚するかという勝負にも負けてしまいました。しかも、こんなに美しい伴侶を見つけた一郎くんに完敗です……」。

 

このスピーチは、聞く人の心を打ち会場の人たちから大きな拍手が起こりました。

 

まず開口一番に、「友だちではない」と発言して緊張感を高め、「どうしても勝てないライバルだ」と説明して、緊張を一気に和らげています。
このように緊張と緩和をうまく取り入れたスピーチは、いつまでも人の心に残ります。
しかし結婚式などのような改まった席でのスピーチの場合、うまく緊張を取り入れなくても大丈夫です。
というのも、このようなフォーマルな儀式では、ふつうの飲み会などとは違って、すでに緊張感があるからです。

 

ですから会話で緊張を高めなくても、心を込めてスピーチをするだけでかまわないのです。
自分だけが知っている新郎(新婦)との微笑ましいエピソードを紹介すれば、場の緊張感が緩和され、聞いている人も思わず笑顔になることでしょう。